価格劣勢 付加価値が鍵 濃厚さが武器に
新型コロナウイルス禍を機に国内では生乳の需給緩和が課題となっている。一方、日本の牛乳・乳製品の海外人気は高まっていると聞くが、輸出は増やせないのか。特に、過剰在庫となっている脱脂粉乳の輸出が増えれば、経営難に悩む酪農家にも朗報だ。関係者への取材で輸出の可能性を探ってみた。脱粉に悩む現場
「脱脂粉乳の在庫を減らす良い方法はないものか」。広大な牧草地が広がる主産地・北海道道東のJA組合長が、そうこぼす。
バターと同時に生産されるが需要が見込めない脱脂粉乳は、飲用向けの需要減で仕向け量が増え、在庫量が一時10万トン台に膨れ上がった。生産者と乳業メーカーが拠出して進めた在庫対策が奏功し、昨年11月時点で5万トンまで減ったが、対策を講じなければ再び増加に転じる懸念がある。
在庫解消の手段になると輸出に挑戦した農家もいるが、簡単ではなかった。北海道豊頃町のメガファーム「Jリード」の井下英透代表は、2022年に自ら脱脂粉乳1トンを購入し、国際援助としてインドネシアに輸出した。井下代表は「現地の規制への対応や書類の手続きが煩雑で頭を抱えた」と明かす。
急増も視界不良
業界一丸となった在庫対策では、取り組みの一つとして脱脂粉乳の輸出を進め、22年の輸出額は前年比11倍超の53億円に急増した。23年も既に21年の実績は上回ったが、農水省や乳業メーカーなど複数の関係者は「今後も輸出拡大が続くかどうかは見通せない」との見方を示す。
脱脂粉乳はヨーグルトなどの原料として用いられるため、他の乳製品に比べて「日本産であることの価値を訴えるのも難しい」(指定生乳生産者団体の関係者)。ほぼ価格勝負となるが、海外産が圧倒的に安く取引されるため日本に優位性はなく、厳しいという。
国産原料活用へ
脱脂粉乳以外の乳製品の輸出にはどの程度可能性があるのか。
同省によると、23年の牛乳乳製品全体の輸出額は11月時点で、285億6000万円。前年同期を2%上回り「このままのペースでいけば過去最高だった22年を上回る」(同省牛乳乳製品課)。
品目別では育児用粉ミルクが最大で、輸出額全体の半分弱を占めるが、製品の多くは輸入品のホエー(乳清)を原料に使う。各メーカーは、国産生乳を原料に使ったアイスクリームや通常の生乳より日持ちするロングライフ(LL)牛乳、チーズなどの市場開拓に取り組んでいる。
「道産」アピール
日本産牛乳のブランドや風味を落とさない殺菌方法といった技術を生かし、輸出拡大に取り組むメーカーも出てきた。コロナ禍を機に本格的に輸出に取り組み始めたよつ葉乳業(札幌市)は、「アジアで認知度の高い北海道を前面に押し出し、濃厚な味わいをアピールして市場を開拓していく」(海外事業グループ)と意気込む。
同社は現在、シンガポール、台湾、マレーシア、タイに牛乳やチーズなどを輸出。高所得者層を中心に需要をつかみ、23年度の輸出量は牛乳だけでコロナ前の19年度と比べ3・7倍まで増える見込みだ。
だが、価格競争力ではオーストラリアや欧州など他の主要輸出国に大きく劣る。同社によると、例えばシンガポールの場合、同社の飲用牛乳(1リットル)の小売店での販売価格は1本当たり6・8ドル程度で、他の日系企業も同程度。他方、オーストラリア産は同3・5ドル程度で、日本産の2分の1程度で手に入るという。
同社は「他の輸出先進国と同じ土俵ではなかなか戦えない」(同)とし、工場での殺菌温度を国内向けよりも高くするなどし飲用向けで日本からのパック輸送を実現するなど、高くても日本産を選んでもらえるような売り込みを進める。
輸出にはこの他、牛乳に含まれる成分の表示や工場の施設登録といった、輸出先国ごとの食品に関する規制への対応が求められる。イスラム教徒向けのハラールの認証取得や、現地のコールドチェーン(低温流通)整備の対応も進める。
<取材後記>
輸出好調は一見すると明るい話題だが、関係者への取材から、額面の動きだけでは分からない現実を知った。国内では需給緩和が長引き、離農が加速するなど酪農経営は厳しい。今回の取材では、輸出を増やせば全て解決するような単純な話ではないことも理解できた。
とはいえ、今後国内の食市場の縮小は避けられず、輸出の重要性は増す。将来にわたる酪農経営の安定へ、業界の結束力が一層問われると感じた。(松村直明)
からの記事と詳細 ( [知りたい聞きたい伝えたい~AgriZの時代~]#牛乳・乳製品の輸出は増やせる? - 日本農業新聞 )
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