Pages

Saturday, July 29, 2023

100年企業が届ける「食べる牛乳」 「おしどりミルクケーキ」の日本製乳 - 産経ニュース

tasisuper.blogspot.com
(左上から時計回りに)おしどりミルクケーキ▷日本製乳創設者の梅津勇太郎▷大正15年当時の工場▷高杉裕之現社長(中央)ら=山形県高畠町(柏崎幸三撮影)

歯応えのあるミルク菓子をかじると、約80年の時を超えて届く懐かしい味に包まれた。敗戦の年、昭和20年に生まれた山形県の隠れた名物「おしどりミルクケーキ」。山形県民にとって、遠足やピクニックの定番おやつ。今も県内のコンビニに並ぶロングセラーは、同県高畠町にある100年企業「日本製乳」により、わが国初の粉ミルクの副産物として生まれた。

透明な袋を開けたら、長さ8センチほどの板状の薄い菓子が出てきた。かじるとバキバキと折れる食感。牛乳に砂糖を溶かしたミルクを飲んでいるような甘さ。

ケーキというとスポンジやタルトを思い起こしがちだが、本来は「固まり」の意味。商品名はそこから取ったという。牛乳に含まれるカルシウムをたっぷり含み、「食べる牛乳」と呼ばれる理由がよく分かる。

ミルクケーキは戦後の食糧難の時代、地元限定の菓子として発売された。戦後しばらくは乳製品は統制下にあり、国に買い上げられたが、昭和25年の統制解除後、市中に出回り始めると、3年後には「ミルクケーキは急に販売増となり大衆的製品になる」と同社の45年史は記録している。

「作り方は発売当時からほとんど変わっていない。非常に手間のいる仕事で、ノウハウを持つうちにしかできないお菓子です」

広大な緑の水田の中にある日本製乳の本社工場で、阿部修取締役(62)は、こう胸を張った。

酪農家192人出資

ミルクケーキの歴史は、一人の男を抜きにしては語れない。明治9(1876)年、高畠町で生まれた梅津勇太郎。生家は油屋で、父親が横浜で買い求めた幻燈写真で見た米国の牧場に「いつかこの米国西部のような広大な牧場を作りたい」と考えたという。

18歳の時に隣接する宮城県七ケ宿町で牧場を始め、「牛の乳を飲むと角が生える」といった迷信が残る時代に「農家の繁栄は、畜産を一緒に行う『有畜農業』こそ必要」と東京へ農商務省を訪ね、何度も追い出されながらも新しい農業のあり方を力説した。国有地1500ヘクタールの払い下げに成功し、牧場を拡大した。

米国に学んだ友人と仙台で乳製品事業を始め、乾燥ミルクの生産に着手。乾燥ミルクからわが国初の粉ミルクへと発展していった。

その間、乳製品生産には企業の近代化が必要だと、株式会社化を目指して県内の酪農家へ出資を頼んだ。192人が応じ、現在の価値で1億円に当たる2千株10万円の資本金を集めて大正8(1919)年、日本製乳は設立された。

同社は高畠町に新工場を建て、わが国初の粉ミルク「おしどりコナミルク」の生産を始めた。おしどりの名は、オシドリが雌雄仲むつまじい鳥であることから、生産者と販売者がおしどりのように仲よく力を合わせ、日本の新しい食文化を作るとの願いを込めてつけられた。

おしどりミルクケーキは、粉ミルクの生産過程で作る固まりを食べてみたところ、おいしかったため、板状に薄く切って商品化したものだった。

初の海外輸出へ

ミルクケーキは今では11種類に増えた。高畠町が生産量全国一のブドウ「デラウェア」の果汁を使ったぶどう味をはじめ、山形名産のサクランボ「佐藤錦」をブレンドしたさくらんぼ味、同じ山形名産の洋梨「ラ・フランス」味など、ご当地ミルクケーキもあり、出張サラリーマンがコンビニで子供たちへのお土産に買っていくことも。

ただ、ミルクケーキの売り上げは約3億円といい、同社の主力は業務用チーズだ。現在、同社は森永乳業のほぼ100%子会社であり、高杉裕之社長(49)も森永出身。自らもミルクケーキ作りに携わるといい、「ものづくりをしたいと食品会社に入ったが、すべて自動化した大手企業では得られない手作りの魅力を感じている」と話す。

誕生から78歳を迎えたミルクケーキは、年内にも、食品商社を通じた初の海外輸出が計画されている。

狙いは台湾、タイ。高杉さんは中国で仕事をした経験から、台湾やタイの人が甘いもの好きであるところに目をつけた。「練乳など甘いものが好きな地域でもあり、ぜひ初の海外輸出を成功させたい」と意気込む。(柏崎幸三)

【日本製乳】 大正8(1919)年設立。本社・山形県高畠町。森永乳業の子会社で、主力は業務用チーズ。令和4年度3月期の売上高は19億円。従業員100人。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 100年企業が届ける「食べる牛乳」 「おしどりミルクケーキ」の日本製乳 - 産経ニュース )
https://ift.tt/lXVqtcw

No comments:

Post a Comment