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Tuesday, January 24, 2023

安いステーキ肉はハンバーグステーキに!料理家樋口さんが解説する牛肉の特徴を活かした調理法 - メシ通

tasisuper.blogspot.com

こんにちは、料理家の樋口直哉です。

本日はステーキ用の牛肩ロース肉で作るハンバーグステーキをご紹介します。

「なぜステーキ用のお肉でハンバーグを作るの?」「そのまま焼いて食べたほうが……」「挽き肉を使えばいいんじゃない?」という声が聞こえてきそうですが、ステーキ用の牛肩ロース肉を使うことにはちゃんと意味があります。

牛肩ロース肉はスーパーなどで、よくステーキ用として売られている部位です。一方、ステーキ屋さんで選べる部位はヒレやサーロイン、リブロースといったところ。

料理家的に考えると、牛の肩のお肉は筋が複雑に入り組んでいるので、正直ステーキに向いているとは言いづらい部位。日本では昔から薄切りにして、すき焼き用やしゃぶしゃぶ用として使われてきました。※薄切りにすると筋は気にならなくなります。

牛肩ロース肉がステーキ用として売られている理由は、安価で見栄えがするということもあるのでしょう。

少し話はそれますが、牛肩ロース肉を使いこなすために、お肉の見分け方を知っておくといいでしょう。上の写真はどちらも、ステーキ用の牛肩ロース肉として同じスーパーで売られていたものです。

「今夜はステーキにしよう」と決めてスーパーに行き、店頭に並んでいたら左右のどちらを選びますか? 

ステーキにするのであれば正解は左です。中心に太い筋が入っていて「焼いたら硬くなりそう……」「可食部が少なそう」と思うかもしれません。

では、なぜ左のお肉がステーキに向いているのか? その理由は牛肩ロース肉の構造を知ると理解できます。

▲牛肉の部位別名称

牛肩ロース肉は上の図のオレンジの部分になります。(牛肩ロース肉の上部は別名クラシタと呼ばれ、牛にくらをのせていた場所に由来します)

牛肩ロース肉は全体に占める割合が大きいので比較的安価で流通する部位です。ただ、大きいだけに同じ牛肩ロース肉でも違いがある部位でもあります。簡単に言うと首側(ネック側)か腰側(リブロース側)かで食感がかなり違うのです。

さきほどの写真左のお肉は、中央の筋を境に、上部がクラシタ、下部がハネシタ(ザブトン)になっています。ハネシタは牛肩ロース肉の中でもリブロースに近く、サシが入っているため肉質が柔らかくシンプルに焼くだけでおいしいステーキになります。中央の筋が気になるかもしれませんが、食べるときに外せばいいだけです。

ハネシタという部位は、焼き肉屋さんで希少部位として売られることもある部分なので、牛肩ロース肉の構造を理解しておくことで、同じ価格で肉質の柔らかい部位を選ぶことができるのです。

一方、写真右のお肉はネック寄りのクラシタです。こちらはサシの入ったハネシタがないので、見てすぐにわかると思います。クラシタは牛が餌を食べたり、水を飲んだりするときによく動く部位なので、焼くと硬い食感になりがちです。そのためシチュー用として使われることが多く、本来ステーキ用ではないのです。

しかし、牛がよく動く部位は「味が濃い」という特徴があるため、適切に調理することで魅力を引き出すことができます。

焼くと硬くなる肉の魅力を引き出すには、お肉を叩く、あるいは細かくするという技法が有効です。手間をかけることでお肉の味の濃さを活かし、お店で食べるような本格的なハンバーグステーキに仕上げることができるのです。

ここでハンバーグを作るなら、最初からスーパーでよく売られているような合い挽き肉を買ってくればいいのでは? という問いにぶつかりますが、今回は自ら叩いたものを使用します。

「牛肩ロース肉を自分で叩いたもの」と「※スーパーで売られている合い挽き肉」ではお肉の状態が異なるからです。

※スーパーには、牛豚の割合や挽き肉の粗さなど様々な種類がありますが、一般的に多く流通されている細引きの合い挽き肉を例に比較しています。

▲左上:肉を押し出すらせん状の部品 右上:お肉をカットして小さくするブレード 左下:お肉のサイズを制御するカットプレート 右下:お肉を挽き肉にするミンサー

お肉を挽き肉にするミンサーという機械は一般的に、「お肉を押し出すらせん状の部品」と「お肉をカットして小さくするブレード」と「お肉のサイズを制御するカットプレート」の主に3つで構成されています。

カットプレートの大きさは3〜10mm程度まで変更可能。料理店ではお肉屋さんに「粗挽きで」「細引きの二度挽きで」という具合に注文しますが、スーパーで売られている合い挽き肉は「細引き」がほとんど。

お肉は細かくなるほどに肉汁を抱え込めなくなり、焼くとジューシーさが失われます。これではハンバーグステーキらしい肉々しい食感は出ません。

脂肪も同様で、お肉が細かくなるほど加熱した際に、肉汁や脂が外に流れやすくなります。なので、ハンバーグステーキに使う挽き肉は粗挽きがいいのです。

牛肩ロース肉を使って、ハンバーグステーキを作る理由の説明が非常に長くなりましたが、作り方を紹介していきます。

材料(2人前)

  • 牛肩ロース肉(ステーキ用)……1枚(380g程度)
  • 塩……小さじ1/2(3g)
  • 粉ゼラチン……3g
  • 生パン粉……10g
  • 玉ねぎ……1/4個
  • 黒胡椒……適量
  • サラダ油……小さじ1

牛肩ロース肉(ステーキ用)を使ったハンバーグステーキの作り方

1.牛肩ロース肉を端から薄切りにしていきましょう。なるべくよく切れる包丁を使い、刃を動かすようにすると切りやすいでしょう。

2.薄切りにしたお肉を細切りにしていきます。

3.細切りにしたお肉を90度回転させ、端から刻んでいきます。目安は2〜3mm程度。

4.半量を包丁で叩きます。お肉を細かくしておくことで、成形しやすくなり、焼いたときに崩れにくくなります。

5.サラダ油は加熱する際に使用するため、それ以外の材料とお肉をボウルに入れて混ぜていきます。今回はすりおろした玉ねぎ、粉ゼラチン、生パン粉を使用することで、ジューシー感と柔らかさを補っています。

※生の玉ねぎをすりおろして加えることで、炒めて飴色にしたものを加えるよりも、さっぱりした肉感を活かした仕上がりになります。

ちなみに、ハンバーグステーキを混ぜ合わせる際には、温度を上げないことが重要です。温度が上がると脂が溶け出して結着力が弱くなっていき、まとまりが失われてしまいます。

ハンバーグは手でよくこねる印象がありますが、ハンバーグステーキの場合はゴムベラなどを使って温度を上げないように混ぜ合わせましょう。また、ゴムベラを使用することで、お肉の繊維が潰れずに、肉々しい食感を残すことができます。

6.全体がよく混ざったら、ラップをかけて上から押して空気を抜いておきます。

7.半量をまな板などに移し、ゴムベラで成形していきます。このときに重要になるのが厚みです。あまり厚いと火の通りが悪くなりますし、薄いと崩れやすいので焼きづらくなります。2cm程度の厚さがベターです。

8.中火のフライパンで焼いてきます。写真は鋳鉄製のフライパンを使っていますが、粉ゼラチンが入っているのでサラダ油がなじんでいないとくっつきやすいです。鉄のフライパンを使う場合は十分に予熱時間をとり、サラダ油をなじませてから火を消し、フライパンの表面温度をやや下げてからお肉を入れます。または中火にかけて、サラダ油を引いたフッ素樹脂加工のフライパンで焼いてもいいでしょう。

中火のまま加熱していくと焦げ目がついてきます。そうしたら裏返して、弱火でさらに3〜5分ほど焼いていきます。

通常のハンバーグは蓋をして蒸し焼きにする場合が多いですが、ハンバーグステーキの場合は表面のカリッと感を強調したいので、蓋をせずにじっくりと焼きます。薄いので生焼けというリスクは少ないはずです。両面が焼けたら火を止め、さらに余熱で3分ほどおいておきます。

9.お皿に盛り付ければ完成です。

買ってきた合い挽き肉で作ったほうが早いのは確かですが、挽き肉の細かさや使用するお肉の部位などで味は大きく変わってきます。コスト面でも大きな差は出ないと思いますので、肉々しいお店のようなハンバーグを食べたいときには、ぜひ挑戦してみてください。

牛肩ロース肉を使ったハンバーグステーキによく合うソースの作り方(オニオンソース編)

今回ご紹介したハンバーグステーキは、塩と黒胡椒で食べてもいいのですが、ソースを添えるとご飯との相性もよくなります。まずご紹介するのはオニオンソースです。ご飯との相性を考えて、しょう油味をベースに仕上げています。

材料(2人前)

  • 玉ねぎ……1/4個
  • にんにく……1/2片
  • しょう油……大さじ2
  • みりん……大さじ2
  • 水……大さじ1

1.玉ねぎとにんにくを小鍋にすりおろします。

2.中火にかけて加熱してきます。玉ねぎとにんにくの水分が減り、鍋のフチに焦げ目がついてきたら火を止めます。

3.しょう油、みりん、水を加えます。

4.中火にかけ、ひと煮立ちしたらでき上がりです。鍋のフチの焦げは、メイラード反応によって生じたうま味ですので、ソースに溶かすようにしてください。洗い物も楽になりますよ。

ハンバーグステーキにたっぷりとかけたら、いただきましょう。

非常に肉々しい食感があるものの、牛肩ロース肉をステーキで食べたときとは全く異なる柔らかさが感じられます。半量は粗く、半量は叩いて細かくしていることで、肉感と柔らかさの両方を兼ね備えた食感になっています。粉ゼラチンと生パン粉を入れたことで、お肉のジューシーさを損なわずに焼き上げることができています。

また、生の玉ねぎとにんにくのすりおろしを炒めることでメイラード反応を起こし、うま味がしっかりと感じられるオニオンソースは、ハンバーグステーキによく合う味わいになっています。お肉の強いうま味に加え、香味野菜のうま味が合わさることで、ご飯がよく進む味わいになっています。

ハンバーグステーキによく合うソースの作り方(洋風ソース編)

オニオンソースでさっぱりと食べてもいいですが、洋風ソースの作り方もご紹介します。作り方は簡単で、すべての材料をボウルに入れ混ぜ合わせるだけです。

材料(2人前)

  • トマトケチャップ……大さじ2
  • とんかつソース……大さじ2 (または中濃ソース)
  • マヨネーズ……小さじ1/2
  • しょう油……小さじ1/2
  • ブランデー……少々(お好みで)

1.材料をボウルにすべて入れ、混ぜ合わせます。

大人っぽい上品な味わいに仕上げる秘訣は香り付けにブランデーを加えること。ブランデーは好みなので入れなくても大丈夫です。

※ブランデーのアルコールがソースに含まれるため、未成年の方やアルコールに弱い方などが食す場合には、ブランデーを入れないようにしてください。

このソースはハンバーグステーキだけではなく、通常のハンバーグにもよく合うので覚えておくと便利です。

マヨネーズを少量加えることで、酸味が抑えられて、コクも加わり味わいがマイルドになります。シンプルな調味料を合わせていますが、とんかつソース(中濃ソース)には、たくさんの香味野菜のうま味が詰まっているので、複雑な味わいを演出してくれます。

また、少量のブランデーを加えることで、香り高くなり味わいも上品になります。肉々しいお肉との相性も抜群なので、洋風のソースで楽しみたい場合はこちらのソースを採用してみてください。

ハンバーグステーキによく合う調味料

最後に、味変として肉々しいハンバーグステーキにおすすめの薬味を紹介します。

ぜひお試しいただきたい調味料は山わさびです。最近はチューブ入りの製品が売られているので、入手しやすくなりました。山わさびは北海道でよく使われる薬味で、特に赤身のお肉によく合います。

同じわさびという名称ですが、緑色のものとは全く別の味わい。特にうま味の強い牛肩ロース肉との相性が非常によく、噛み締めていくことに双方のうま味が引き出されていきます。辛味も控えめで、さっぱりとした味わいになるため、ちょっとした味変にこちらもお試しください。

まとめ

今回は、ステーキ用の牛肩ロース肉を使用したハンバーグステーキの作り方をご紹介しました。スーパーで安価に販売されている部位ですので、牛肩ロース肉の見分け方などを覚えていただき、おいしく調理してもらえたらうれしく思います。

食材の特徴を理解して、それを最大限に活かす調理をすることで、手間以上のおいしさを感じていただけると思いますので、気になった方はぜひ挑戦してみてください。

書いた人:樋口直哉

服部栄養専門学校卒業後、料理教室勤務や出張料理人などを経て、2005年『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。同作は芥川賞候補になる。作家として作品を発表する一方、全国の食品メーカー、生産現場の取材記事を執筆。料理家としても活動し、地域食材を活用したメニュー開発なども手がける。主な著書として小説『大人ドロップ』(2014年映画化)『スープの国のお姫様』、ノンフィクション『おいしいものには理由がある』、料理本『新しい料理の教科書』など。

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