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Wednesday, May 4, 2022

今週の気持ち:今週の気持ちは「ステーキ」 - 毎日新聞 - 毎日新聞

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 「女・男の気持ち」(2022年4月28日~5月4日、東京・大阪・西部3本社版計21本)から選んだ「今週の気持ち」は、東京本社版4月30日掲載の投稿です。

   ◇

<今週の気持ち>

ステーキ 三重県四日市市・岩城有紀子さん(無職・81歳)

 今年も次女が、ステーキ用の肉を届けてくれた。ああ、夫の誕生日だ。

 9年前の4月25日、私は夫に「何が食べたい?」と聞いてみた。「お母さんに任せるよ」といういつもの言葉ではなく「ステーキ」と即答され、戸惑ったのを覚えている。

 正月用の肉を買う百貨店まで行けず、いつものスーパーで肉を買い、食卓に出した。夫がナイフを置いたまま無言だったので「おいしくない?」と聞くと「口がおかしいかなあ。もっとうまいはずや」と答えた。

 「焼き方が悪かったかしら。ステーキは、やっぱり店で食べるほうがいいねえ」。私はさりげなく返した。その5日後の30日、夫は急死した。

 おいしいステーキを食べさせたかった、との後悔は消えず、つい次女に本音をもらした。それから毎年決まって、次女から夫に誕生祝いが届く。

 子煩悩で家族思いの夫だった。次女の気遣いを、あの世でどんなに喜んでいるかと思う。

 肉は仏前に供えるものではないと聞くが、この日だけは許してもらう。自分の至らなさを心からわびて、手を合わせる。

 今年も焼きたての熱々をお供えしてお経をあげ、1年に1度のステーキを私がいただいた。冷めた肉を口にすると、独りの寂しさが胸にしみてくる。夫に会いたいとせつなく思う。

   ◇

<担当記者より>

 初めてだったご主人からの誕生日プレゼントのリクエスト。岩城さんは、その「ステーキ」のリクエストに十分に応えられなかったことを、今も後悔しています。「心不全で、突然逝ってしまいました。こんなに早く別れの日がくるとは思いませんでした」。おいしいステーキを食べてもらうリベンジの機会は、永遠に失われてしまいました。

 岩城さんは今年もご主人の誕生日に、お嬢さんから届けられたステーキ肉を焼きました。焼きたてを仏壇にお供えし、冷めたものを独りで味わう――。その光景が目に浮かび、こちらまでせつなくなりました。掲載日はご主人の命日と同じ4月30日。岩城さんは「供養になります」と喜んでくださいました。

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