「おいしい牛乳は土作りから」がモットーだ。牛の健康には良質な餌が欠かせず、良質な餌は良質な土でしか作れない。経営する石岡鈴木牧場(石岡市)では現在、育成牛を含む五十頭を飼っている。どれも体の色つやがいい。
酪農家の生まれだが、継ぐ気はなかった。大学卒業後は獣医師として家畜保健衛生所に勤めた。
ある日、妻ともえさん(70)の父から「農業は、国民の食料を生産する意義がある」と伝えられた。義父も酪農家だった。「仕事に意義なんて考えたことがなかった」と感化され、三十歳で実家の牧場に身を置く覚悟を決めた。
経験不足を補うため、講演会や勉強会に足を運んだ。だが、講師の口から出てくるのは、目標の乳量をクリアする話ばかり。「数字を求めると、牛が病気や難産になり、しっくりこなかった」と振り返る。
それでもあきらめず、牛に優しい酪農を模索した。そして四十歳の頃、ようやく講演会でヒントを得た。講師は言った。「牛を健康に飼いなさい。そのためにはいい土を作っていい餌を作り、それを牛に与えなさい」
さっそく実践に移したものの、結果は芳しくなかった。牛のふんで堆肥を作り、それを混ぜた土で育てたトウモロコシや牧草を牛に食べさせたが、肝心の堆肥作りに苦心した。
この循環を繰り返すこと十年、ついに臭みのない理想の堆肥ができあがった。牧場からは特有のにおいが消え、牛乳もすっきりとした味わいになった。
二〇〇四年には、ヨーグルト製造に乗り出した。「なめらか」と口コミで評判を呼び、週四百本だった販売数が、いまでは週一千本と倍以上に増加した。「消費者が、安さを求めるコスト競争ではなく、自分たちのやってきたことを評価してくれた」と顔をほころばせる。
牧場と同じく持続可能な循環型の社会を意識し、ヨーグルトや牛乳は瓶に詰めて販売。返却された瓶を再利用している。
今後の目標は、餌の自給率を高めることだ。飼料用の牧草などを育てる畑は当初四ヘクタールだったが、現在は九ヘクタールほどに拡大し、自給率も六割ほどになった。さらに畑を増やし、自給率八、九割を目指す。
「私たちの酪農方法を理解してくれる人たちのために、安全安心な食を届けたい」 (松村真一郎)
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牧場内の直売所では、牛乳やヨーグルト、チーズを販売している。午前十時〜午後四時。水曜定休。問い合わせは、石岡鈴木牧場=電0299(23)1730=へ。
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