【連載】流通戦国時代を読み解く
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2022年8月、「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスの一ノ瀬夫社長が、近年の業績不振の経営責任を明確にするため、辞任したことが報じられていた。いきなりステーキと言えば、2013年に1号店を出店してからあっという間に成長を遂げたものの、その後、過剰出店が仇となり大規模な店舗閉鎖に追い込まれ、経営危機に陥り話題になった外食チェーンだ。ジェットコースターのような同社の業績推移に関して指摘も多いが、流行り廃りの激しい外食業界ではたびたび見られる事例だ。今回は、「いきなりステーキ」と同じく、激減した「東京チカラめし」の事例を紹介しつつ、外食業の存続が難しい理由を解説する。
みずほ銀行の中小企業融資担当を経て、同行産業調査部にてアナリストとして産業動向分析に長年従事。分野は食品、流通業界。主な著作物に「図解即戦力 小売業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書」(技術評論社)、「50年に一度の大転換期を迎えるスーパーマーケット業界」、「業態盛衰の歴史が示唆するこれからの小売の方向性」(中小企業診断士)などがある。
店舗数は激減、いきなりステーキの現状
いきなりステーキは、2013年に1号店を出店してから急速に成長を遂げ、2019年12月期には493店舗、売上571億円にまで拡大した。しかし、その後は過剰出店が仇となり大規模な店舗閉鎖に追い込まれ、経営危機に陥ったこともある(図表1)。2022年12月期第2四半期では、いきなりステーキ業態を215店舗まで店舗閉鎖を進め、上半期売上72億円、経常利益2億円となったものの、計画を上回る減損損失が発生して当期純利益はマイナス10億円と大幅赤字となり、未だ財務諸表には、倒産リスクの高い企業に付けられる注釈と言われる「継続企業の前提に関する注記」がついている状況にある。
なぜ、急成長を遂げたペッパーフードサービスは、その後停滞していくことになってしまったのか。この会社の経緯について振り返りつつ、その要因についてみておくことにしよう。
なぜ、いきなりステーキは転落していったのか
いきなりステーキは、立ち食いによる高回転によって、ステーキを低価格で提供するという斬新なスタイルがウケて、マスコミなどでも大きく取り上げられて話題となり、2017年頃にはブームと言えるような状況となったことは記憶にある方も多いだろう。図表2にあるように、2017年頃の既存店売上増減率(対前年比)は140%を超える繁盛ぶりであり、並行してフランチャイズ(FC)に加盟する店舗も急増、2018年度には96店舗増やしている。
しかし、ブームが一巡すると、既存店売上増減率が2018年4月に100%を割り込むとその後は既存店売上が急落し、大幅な前年割れを続けるようになっていく。
後になって考えれば、この時、すでに過剰出店となって店舗同士のカニバリズムが起こっており、出店スピードを落として立地を厳選すべきであったのだが、いきなりステーキは出店スピードを緩めなかった。このことが、結果として大量の不採算店を抱える主要因となってしまうのだが、その時の当事者とすれば、出店のピークがどこなのか、ということについては、判断は難しかったのも確かだろう(図表3)。
外食業界においては、流行り廃りがあり、業態の陳腐化スピードが速い、ということは常識ではあるのだが、それがために流行っているうちに、素早く店舗網を拡大して、収益を極大化しようという考え方がある。そのため、FC展開を活用し、本来の資金力を上回る出店を行って早く店舗網を拡大するというは飲食業界の定石の1つではあり、それ自体に問題がある訳ではない。
しかし、いきなりステーキの場合は、ブームによる加熱が冷え込むスピードが想定以上に早かったようだ。結果的には、無謀な拡大路線が大量閉店を生み出したということになってしまうのだが、ブームの渦中にあった当事者にとっては「まだまだいける」と判断したというのも、分からないでもない。
理想を言えば、業態の陳腐化は必ず起こると想定し、下降局面を想定した業態転換戦略が求められるのであろうが、成長段階のチェーンストアで、そこまでの準備をしている企業はほとんどいない。また、転換策を準備していたとしても、必ずしもその通りに行くとは限らない。
ここからは、業態が陳腐化する前に、業態転換を図ったものの飲食業としての存続が危ぶまれるようになってしまった「金の蔵」「東京チカラめし」などを運営する三光マーケティングフーズの事例も解説する。
【次ページ】「東京チカラめし」も長続きせず…外食業が続かない理由
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