「人生が変わる○○」と題した本はよく見かけるが、ちょっとこれは予想外だ。糖尿病内科医・漢方医の工藤孝文さんによる著書『人生が変わるホルモンコントロール術 はたらくホルモン 朝1杯の牛乳が夜の睡眠を変える』(講談社)である。
「ホルモンコントロール」をすることで、「ウイルスに負けない! 太りにくい体になれる! 心が安定する!」という。ホルモンのことをよく知らなくても、どうやらホルモンはすごいらしいと思えてくる。
「ダイエットも、疲労回復も、若返りも、あなたの気持ちでさえも、すべて、ホルモンが影響しています。あなたの人生は、ホルモンにコントロールされている、と言っても過言ではないのです。でも実は、暮らしの中で、ほんの少し工夫することで、逆にホルモンはコントロールすることができます」
「実はこれ全部ホルモンの話」
工藤孝文さんは、1983年福岡県生まれ。工藤内科医院副院長。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアで食行動異常を研究。帰国後、内分泌疾患、糖尿病、肥満症などを専門に大学病院に勤務。地元の基幹病院を経て、現職。日本内科学会、日本糖尿病学会、日本肥満学会、日本抗加齢医学会、日本東洋医学会、日本女性医学学会、日本高血圧学会会員。
工藤さんは、一日300~400人の患者を診察しているという。「年齢的にまだキャリアは短いかもしれませんが、一日に接する患者さんが多い分、多くの症例に接してきていると思います」。ホルモンコントロールなどオリジナルメソッドを用いた減量外来では、その成功率の高さに定評がある。「ガッテン!」(NHK)、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)など、メディアへの出演をはじめ、講演、著書多数。
工藤さんの著書から生まれた言葉には「きゅうりダイエット」「しった激励ダイエット」「おからヨーグルト」など、いろいろある。そのため、「何でも屋」と言われることもあるようだが、「実はこれ全部ホルモンの話なんです!」。いくつか紹介しよう。
■7秒座るだけダイエット
筋肉に負荷をかけることで脂肪の分解を助け、肌を若返らせる筋肉ホルモン・マイオカインが分泌される。
■緑茶コーヒーダイエット
緑茶に含まれるテアニンという成分が、幸せホルモン・セロトニンにはたらきかけるので気持ちが前向きになる。
■ミートファースト
肉を先に摂ることで、満腹ホルモン・インクレチンが出やすくなり、食べ過ぎを防げる。
このように、体の動き・感情の動きによって分泌されるもの、食べ物を摂ることで分泌されるもの、食べる順番を変えただけで「食べたい」という気持ち自体を変えてしまうものなど、ホルモンにもいろいろあるようだ。
まさにホルモン図鑑
ホルモンという概念が医学的に確立したのは、実は20世紀になってから。100種類以上あるといわれているが、正確な数はまだ分かっていないという。
ホルモンの分泌に影響しているのは、体内時計をはじめ、食事、ストレス、性周期(女性の場合は月経など)、加齢。性周期や加齢は避けられないが、体内時計、食事、ストレスはコントロールでき、これらを整えることを「ホルモンコントロール」という。
「第一部 ホルモンはこうしてはたらいている」では、「ホルモンがはたらく仕組み」など、ホルモンの基本からわかりやすく解説。「第三部 ホルモンにはたらきかけるもの」では、「漢方」「アロマ」「飲み物」「食品中の成分」「工藤先生オリジナル やせる出汁」を紹介。
本書の最大の読みどころは、「第二部 ホルモンはこんなにはたらいている」だろう。20種類のホルモンを5つのはたらきに分類し、一つずつくわしく取り上げている。
■ダイエットを成功させるホルモン
■仕事力をあげるホルモン
■メンタルを左右するホルモン
■免疫・慢性疾患に関わるホルモン
■疲労回復のカギになるホルモン
まず、患者の悩みを例に挙げる。次に、悩みを解決するホルモンコントロール術を紹介する。最後に、ホルモンデータ(分泌する場所・分泌するタイミング・役割・弱点など)を掲載する。この3段階で進み、理解しやすい。
アニメのキャラクター図鑑を思わせる、まさにホルモン図鑑。ホルモンは実態がわかりづらく、どれも似たような名前で覚えづらい。しかし、擬人化したイラストを見ているうちに、個々のホルモンに親しみを覚えた。
「ホルモンのことを思い出してください」
まず、「仕事力をあげるホルモン」から「File07 戦闘ホルモン・アドレナリン」を紹介しよう。IT企業に勤務するHさんは、リモートワークをしている。最初は面倒な通勤も人間関係の悩みもない日々に感動していた。しかし、数ヵ月後には闘争心がすっかり抜けて、安全な場所でダレきってしまった。つまらない毎日とさよならできる簡単な方法とは?
「緊張や興奮状態をつくり出し アドレナリンを出しましょう」
たとえば、何か目標を立てて周囲に公言する、少しレベルの高いことに挑戦する、非日常的な環境に身を置く。ほかにも、お腹の底から大声を出す、筋トレを限界までがんばってみる、重い物を持ってみる、鼻で素早く10秒呼吸するなど。
アドレナリンは、「戦うか逃げるか」という緊急・興奮時に放出される。ギャンブルにハマったとき、ヒヤリとしたとき、カフェインを摂ったとき、恋人と喧嘩したとき、きつい運動をしている場面などで分泌が高まるという。ただ、心身にストレスを与え続けるのはNG。「適度にアドレナリンを出す生活が、生き生きとした毎日につながります」。
次に、「免疫・慢性疾患に関わるホルモン」から「File17 カルシウム吸収ホルモン・ビタミンD」。専業主婦のCさんは、息子が冬になると風邪を引きがちなことから、万全な体調で受験当日を迎えられるかと心配している。感染する人・しない人の違いに、ホルモンのはたらきは関係する?
「ビタミンDの血中濃度が高い子どもは インフルエンザにかかりにくいといわれています」
免疫レベルを保つために特に意識して摂りたい栄養素は、タンパク質とビタミンD。ビタミンDは栄養素と認識していたが、機能が多用で、最近ではホルモンと認識されているそうだ。
ビタミンDは体内だけでは充分な量をつくることができず、外から摂取する必要がある。効率よく摂れるのは、しらす干し、サケ、イワシ、サンマなど。また、日光浴で必要量の80~90%は体内でつくることができる。ビタミンDには、歯や骨を強くするはたらきをはじめ、筋肉疲労や筋肉痛の改善、免疫や精神、脳の健康にも関連していることが分かってきており、近年その機能に注目が集まっているという。
タイトルにある「朝1杯の牛乳が夜の睡眠を変える」や「工藤先生オリジナル やせる出汁」など、「へえ!」と早速やってみたくなる情報が盛りだくさん。ぜひ本書をお読みいただければと思う。
最後に一つ。コロナ禍で、ホルモンについての出演オファーが増えたという。
「感染というリスクが常につきまとい、先行きが見えない不安を抱え、誰のせいにもできない怒りを抱えている方が多い中、まさにホルモンコントロールの必要性を感じていました」
「心や体がなんだかつらいな、というときこそ、ホルモンのことを思い出してください。暮らしの中のちょっとした工夫で人生はもっとずっと楽しく、らくになります」
全身のあらゆる臓器から分泌されているホルモン。目に見えないから意識したこともなかったが、ホルモンのはたらきを知っているか知らないかで、心身の調子はずいぶん違ったものになりそうだ。
「あなたの人生はホルモン次第! 今日からぜひ、ホルモンコントロールを始めましょう」
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