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Tuesday, November 17, 2020

「“M1”搭載MacBook Pro」の性能は、控えめに言って“驚異的”…これこそイノベーションだ【実機レビュー】 - Business Insider Japan

tasisuper.blogspot.com

M1MacBookPro-1

11月17日に発売されたM1搭載MacBook Pro。

撮影:伊藤有

  • ベンチマークテストで驚きの処理性能。4年前のMacBook Pro15インチより2倍速い
  • インテル版アプリの互換エミュレーター「Rosetta2」は十分速い。実用レベル
  • iOSアプリの実用性はやや改善の余地あり
  • 低発熱、静か。高負荷処理中でもファンの音はほぼ聞こえない

「この性能って本当? 見間違いじゃないのか?」

今、世界中の先行レビュワーたちが、おそらく同じことを思っているんじゃないだろうか。

アップルが11月10日(日本時間)に発表した独自のSoC「M1」(総称してアップルシリコン、と呼ばれている)を搭載した初のMacの1つ、M1版MacBook Pro(13インチモデル)の実機が、「非常に高性能だった」からだ。

この原稿を書きながらも、どこかに見落としがあるんじゃないか? と慎重になろうとしているほどだ。

ただ、各種ベンチマークテストの数値や、実際のマシンの挙動を見る限り「確かに速いし、想像以上に完成度が高い」と評価できる製品としか言いようがない。

かなり控えめに言っても「何が起こってるのかわからないくらい驚いた」というのが、実機を3日間触っての評価だ。

「魔法のように」とは言いたくないが…“M1”は間違いなくゲームチェンジャー

M1MacBookPro-3

撮影:伊藤有

M1版MacBook Proは、SoC(CPUやGPUなど、PCに必要な各種機能を1チップ化した半導体)のアーキテクチャーをこれまでのインテルのx86という仕組みから、iPhoneなど多くのスマホで採用されるArmベースに変更した。

Armベースの半導体でPCのOS(デスクトップOS)を動かそうという意欲的な試みは、マイクロソフトもすでに「Surface Pro X」で実現している。しかし、その狙いが大成功してるとは、まだ言い難い状況だ。

全く違う仕組みで動くCPUで、OS・アプリ・各種ソフトウェアを動かすには、常に互換性が問題になるからだ。

一般論として、互換性を解決するために「x86環境を再現するエミュレーター」を動かすと、今度はパフォーマンスが落ちやすい。アプリが不安定になったり、遅くなる・そもそも動かない、といった具合だ。

これらはPC/IT業界を長く取材している者としては「常識」の1つで、不思議はない。

アップルのM1チップで動く初のMacも、こうした前提の上に、今後時間をかけて技術的ハードルをクリアーして行くのだろう……という勝手な先入観を持っていた。

試用機を使い始めると、その想像は、ほぼ完全に裏切られることになった。もちろん良い意味で。

まず、性能評価をする定番ベンチマークアプリの1つ、Geekbench 5を実行した結果がこれだ。

M1geekbench

数字が大きいほど、処理性能が高いことを示している。ネイティブ実行時は2倍以上速く、Rosetta2で実行しても1.5倍以上速い。

Business Insider Japan

比較対象は、2016年後半に発売された「MacBook Pro 15インチ(late 2016)」モデルだ。4年前の機種とはいっても、CPUにCore i7、グラフィックス強化のために外部GPUも搭載していて、今でも毎日、現役で使っている。

ベンチマーク結果は、シングルコア処理でも、マルチコア処理でも「2倍以上高速」という結果だった。何度か計り直したが、誤差程度の違いしか変わらない。

comparison

登録済みのランキングで見ると、Mid2020のiMacよりシングルコア性能が高いということになっている。

出典:アップル

Geekbench 5には、M1上でネイティブ実行動する以外に、Rosetta2というx86互換環境上で実行するモードもある。

Rosetta2モードで計測すると、確かにスピードは落ちるものの(遅くなって当たり前なのでホッとした)、それでもなお、1.5倍ほど速い。

また、M1対応の最新版「CINEBENCH R23」でもM1の高性能ぶりは計測できた。

cinebench

M1対応版がリリースされたばかりの「CINEBENCH R23」での評価。左がシングルコア性能で右がマルチコア性能。シングルコア性能は、最新の11世代Core i7とほぼ同等という結果。

作成:伊藤有

ベンチマークテストではもう1つ、驚かされる結果が出ている。Mac版ゲーム「Shadow of the Tomb Raider: Definitive Edition」のベンチマークモードの結果だ。

ベンチマーク比較

本格3Dゲームの性能でも内蔵GPUでここまでの結果が出るのは、M1とmacOS BigSurの素性の良さと言えるだろう。

作成:伊藤有

解像度などをデフォルト設定した場合、平均フレームレートで34fps、解像度は同じでグラフィックを「最高」に設定した場合でも平均28fpsという結果だった。

一方、各種設定を上記のM1版MacBook Proに合わせたMacBook Pro 15インチは、平均26fpsにとどまった。ここで重要なのは、「Shadow of the Tomb RaiderはM1ネイティブ対応のゲームではない」ということだ。

  • パフォーマンス的には不利な、Rosetta2で動いている
  • これまでデスクトップOSでの実績がないM1チップで動作
  • さらに内蔵GPUでの処理性能

こういったことを総合して考えると、やはり「驚きの高性能」と言って良いと思う。

これらの結果を見て、M1搭載MacBook Proには、これまでの「常識」は忘れて、まっさらな目で見た方がいい、と思い始めた。

インテル版アプリの動作はほぼ問題なく、実用レベル

M1版Mac上のアプリ

M1版Mac上のアプリは、どういうプログラム(コード)で作られているかによって、「種類」が違う。「Intel」とあるのはRosetta2で動くアプリ。「Universal」はインテル版、M1版両対応のアプリ。「Appleシリコン」は、iOS版アプリを示している。

作成:伊藤有

多くの人が気になるのが「それで、Rosetta2上のインテル版アプリは実用レベルで動くのか」ということだろう。

M1チップ向けに作られた(ネイティブ動作する)アプリが多数登場するにはまだ時間がかかるからだ。

星の数ほどあるアプリの全てをテストするわけにも行かないので、あくまで自分が仕事で毎日使っているものをRosetta2で動かした範囲で見ていくと、以下のような状況だった。

  • 「Zoom」 ◎問題なく動作
  • 「Chrome」ブラウザー ○拡張機能も含めて、起動速度、動作、ほぼ問題なし
  • 「Word」、「Excel」 ◎インテル版のままで問題なし
  • 動画再生アプリ「VLC」 ◎iPhoneで撮影した4Kの動画ファイルの再生も問題なし
  • 写真現像アプリ「Lightroom」 ×実用に難あり。Lightroom Classicはファイル読み込めないほど遅い。Lightroom CCでは、かなりゆっくりとした読み込み。ファイル切り替えの「待ち」にストレスが伴うので実用的ではない
  • 「Photoshop」読み込み、補正処理は問題なし。書き出しが少し遅いが実用にはなるレベル。
  • クラウドストレージ「OneDrive」 ○常駐型アプリ。Rosetta2上で問題なく動いているが、同期の速度がやや遅い印象。仮想ファイルの同期(900GBぶん)の同期に2日以上かかった。

3DゲームがRosetta2上で動くことからわかるように、基本的な互換性は高く、一般的な使用ならパフォーマンスも申し分ない。

ずっと使っていると、たまにRosetta2で動くアプリのレスポンスが悪くなることがあるが、問題視するような不安定さとは思わなかった。例えば、Chromeブラウザーのタブを20個くらい開いて、スリープ後に再度表示しようとすると、表示まで数秒時間がかかることがある…そんな感じだ。実際、この程度なら自分の仕事マシンにも使えると思える。

課題があったLightroom(アドビ)もOneDrive(マイクロソフト)も大手で、両社ともにアプリによってはArm版のネイティブ対応を始めるというアナウンスがある。遠からず問題ない動作になるのではないか、と思っている。

なお、手持ちのアプリがM1対応なのか、Rosetta2で動く(インテル版)かを見分けるアプリも早速登場している。「Uni Detector」を使うと、インストール済みアプリの対応状況を一気に調査して確認できる。

Uni Detector

Uni Detectorの画面。インストール済みアプリをリストアップして、M1への対応状況を確認できる。自分の環境で調べると、11月16日時点でM1対応だったアプリは、そのほとんどがアップル純正アプリか、iOS版アプリだった。

作成:伊藤有

iOSアプリの方が、実は「課題あり」

iOS版アプリ

MacBook Pro上で起動させたiOS版アプリ。左から「楽天」「ビックカメラ」「GU」アプリ。

作成:伊藤有

意外だったのは、iOSアプリの挙動だ。

M1チップは、最新iPhoneに採用されるA14 Bionicの延長線上にあるチップで、iOSやiPadOS向けアプリがなんなく動く。

動作そのものもおおむね問題ないが、いくつかRosetta2とはまた違った注意点がある。3つ挙げると、

  • アプリの表示サイズは変えられない場合がある(iOSアプリをiPadで表示した時のような2倍表示モードがないようだ)
  • 画像や動画の読み込みは「写真」アプリ経由で行う
  • iOSアプリ上の画像素材は、ドラッグ&ドロップで保存できる

というものになる。

M1版Mac上で動作するiOSアプリは、特殊な動作環境(サンドボックスと呼ばれる)の中で動いている。そのため、macOSアプリとiOSアプリ間のファイルのやりとりには、かなり制限がある。

また「そのiOSアプリをM1版Mac向けに提供するか」どうかは、開発者が選べる仕組みだ。だから例えば、Mac AppStoreを検索すると「ビックカメラ」や「楽天」アプリはあるのに、「ヨドバシカメラ」アプリは検索しても出てこない、という事になる(原稿執筆時点)。

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M1版MacBook Pro 13インチのキー配列。パッと見は従来のインテル版と何1つ変わらないので、動作面からも最新機種だとは誰も気づかないだろう。

撮影:伊藤有

iOSアプリ動作環境の実装については、Rosetta2の互換性の高さとは真逆に、割と「作り込みが足りない」印象を受ける。

アプリそのものはしっかり動作するものの、13インチの画面サイズで表示させると、アプリによっては「もう少し大きく表示したい」と思うものがある。現時点ではただ「100%サイズでアプリを表示する」だけだ。

アプリの「2倍表示機能」を付けるのはそう難しくないはずだが、なぜそういう実装にはしなかったのか。

Rosetta2のチューニングに時間を割いたせいなのか、iOSアプリはこれで良いと思っているのかは、アップルのエンジニア以外は知る由もない。

最後に、興味深い2つの「謎」についても触れておきたい。

謎その1:発熱とバッテリー駆動時間

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撮影:伊藤有

M1搭載MacBook Proには、他にもこれまでの常識があまり通じないところがある。

例えば、高負荷処理と空冷ファンの動作の関係についてもそうだ。Geekbench 5やShadow of the Tomb Raiderのベンチマーク処理は、マシンの演算能力を引き出すため、高い負荷(=発熱)がかかる。

それでも、1回数分間のベンチマークを2回、3回と連続して走らせても、ファンが回る音がほとんど聞こえない。これは不思議な体験だった。

もちろん発熱はしているが、「本体底面がほんのり熱い」という感覚だ。それでいて、ベンチマーク結果は良い。

mbp13

M1版MacBook Proの排熱イメージ。実際には、ほぼ音が聞こえないほどの速度でファンが回っているだけなのだが……。

出典:アップル

一方、バッテリー駆動時間についてもいくつか見えてきた。

M1版MacBook Proは、「最大17時間の無線インターネット接続」をうたっている。前述の「同期が終わらないOneDrive」を接続し続けたまま、原稿を書いたり、動画鑑賞をしたりという使い方をしていると、「アクティビティモニタ」で見るCPU負荷は、ざっくり50%程度、ほんのり本体全体が発熱もしている。この状態では、1時間で10%消費していくため、計算上は10時間程度でバッテリー切れ、という事になる。

一方、無駄なCPU処理がほとんど回らない状態(Chromeと、完全同期済みのOneDriveだけを起動した状態)だと、1時間で6〜7%前後のバッテリー消費ではあった。17時間の駆動時間は、やはりほぼ負荷をかけない状態ということになりそうだ。

※アップル公式サイトによると、17時間を計測した設定は、「ディスプレイの明るさを最低輝度から8回クリックした状態」(=真ん中)

謎その2:動作クロックに見る不思議

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Geekbench 5とTombRaiderでの表示クロック数の違い。

作成:伊藤有

もう1つの謎は、M1チップの動作クロックだ。

アップルはiPhoneやiPadでは伝統的に「CPU(SoC)のクロックは公開しない」という方針をとってきた。インテル版MacのCPUについては、PCの世界の慣例でクロックは公開していたが、それでもインテルのどの型番なのかは自らは言わなかった。

ここまでベンチマーク結果を見てきた人ならわかるように、動作クロックの判定は2種類ある。

Geekbench 5では「3.2GHz」と認識していて、一方のShadow of the Tomb Raiderでは、「2.5GHz」と認識されていた。ベンチマークテストという過負荷をかけるアプリで認識に差があるというのは気になる。

さまざまなパターンでテストしたところ、どうもRosetta2で動くアプリからは、M1は「2.5GHzのVirtual CPU」として認識されているように見える(実際の動作クロックは、おそらく2.5GHzには落ちていない)。

これは、

  • Geekbench 5をインテルモード(Rosetta2)で実行すると必ず2.5GHzと認識されること
  • しかし、別のRosetta2アプリを起動しながら、M1モードでGeekbench 5を実行すると、(2.5GHzには落ちず)3.2GHzのままなこと

からの推定だ。なぜこういう仕様なのかは今の時点ではわからない。詳細は今後の取材で解き明かしていきたいところだ。

まとめ:アップルが久々に放つ「本当のイノベーション」

apple-siliconMac-14

M1チップ(写真はMacBook Airのもの)。SoCなのでコンパクトなチップにPCの主要な半導体が収まっている。

出典:アップル

個人的には、M1版MacBook Proの完成度にはアップルの底知れなさを感じさせられた。真面目な話、ここ10年で一番驚かされた製品の1つだ。

これだけの結果を出せたのは、単にCPUコアとGPUコアが速い、というだけではなく、M1チップとメモリーを1パッケージにする「ユニファイドメモリー」という仕組みによる、実質性能の強化も効いているのかもしれない。

そういったハードウェア性能だけではなく、これだけのパフォーマンスを出すためには、相当用意周到に準備して、ソフトウェア面を作り込んできたことも想像できる。

それは、Rosetta2の互換性の高さを見ても明らかだ。まさにハードウェア(半導体)とソフトウェア(OS)を垂直統合して開発できるアップルならではのイノベーションと言っていい。

この結果を見て、インテルはどう対抗してくるのか? 同じようにArm版SurfaceとArm版Windowsをリリースしているマイクロソフトはどう反応するのか?

「PCのCPUは、やっぱりインテル(x86)」の常識に一石を投じる結果なだけに、IT業界に投げかける波紋も相当大きなものになる。

発表当初のラインナップでは「Arm版はあくまで下位モデル」といった雰囲気だったが、最上位クラスの置き換えは、2年と言わず思ったより早いのかも知れない。

この先、CPUコアやGPUコアを増やしたハイパワー版の「M2」(と呼ぶのかは知らないが)が早期に出てきても、全く不思議じゃないという気分だ。

(文・伊藤有

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