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Friday, November 3, 2023

中東のラボで牛乳・乳製品に静かな革命が起きている - WIRED.jp

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● ミルク飲用の歴史
● 新技術を搾り出す
●「変えたのはプロセスであって、食品ではありません」
● 細胞農業の揺るぎない将来性
● 環境にもお腹にも優しい乳製品
● 乳業の新時代に沸く投資家たち

テルアビブを拠点とするフードテックのスタートアップRemilkは、同地域で初めて研究室(ラボ)内でミルクの生産を開始した企業として歴史に名を刻んだ。

革命は進行中だ。イスラエル政府は2023年4月、牛を使わず、乳糖やコレステロール、抗生物質、成長ホルモンを含まない、持続可能な「本物」の牛乳・乳製品を提供するものとして、Remilkにゴーサインを出した。同社の事業は、わたしたちの知る従来の乳業のあり方を覆すものだ。製乳に革命を起こすべく大胆な取り組みを行なっているのはRemilkだけではない。ほかにも、ImaginDairy、Wilk、EXOSOMMといった新時代のスタートアップ企業が参入し、この分野の限界を押し拡げている。

ミルク飲用の歴史

技術革新と並行して、人類のミルク(動物の乳)飲用の歴史にまつわる謎や、「文化的習慣が先か遺伝子変異が先か」という古くからの疑問を解き明かす、いくつかの科学的発見もなされている。

ヨーロッパでは、ヒトがミルクを飲み始めたのは少なくとも8,000年も前のことで、乳糖の完全な消化を可能にする「乳糖耐性遺伝子」[編注:乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)を生産する遺伝子]に進化が起きるよりも前であったことが証明されている。これは、わたしたちの祖先が、ミルクを体内で完全に処理するための遺伝子ツールを発達させる遥か以前からミルクを味わっていたことを示唆している。

人間のミルク飲用の過去を探るため、研究者たちは8,000年以上にわたる酪農の豊かな歴史をもつアフリカ大陸に目を向けた。そして、スーダンとケニアで発掘された2,000年から6,000年前の古代人の顎の骨から採取した歯を分析し、動物の乳特有のタンパク質の痕跡を確認したのだ。オープンアクセスの学術誌「Nature Communications」に掲載されたこれらの画期的な発見は、ヒトがミルクを摂取していたことを裏付けるアフリカ最古の、そしておそらくは世界最古の直接的な証拠だ。

現在に話を戻すと、太古より親しまれてきたこの偉大な飲み物に代わるさまざまな製品が、乳業界に新たな活力を与えている。今日、街の食料品店には、従来の牛乳に代わる選択肢が無数に並ぶ。大豆、アーモンド、オーツ麦、米、麻の実、ココナッツ、カシューナッツ、えんどう豆まで、植物由来の代替ミルクは種類の多さに限りがない。そしていま、ラボ産ミルクという領域に、“牛抜き”の「本物」の牛乳を求める多くの人の注目と期待が集まっている。

新技術を搾り出す

乳業界が抱える諸問題に終止符を打つ技術への追求が、牛乳・乳製品をラボで製造するという、達成不可能と思われていた理想の実現につながった。この先駆的なイノベーションは、精密発酵の原理に基づくものだ。精密発酵とは、乳タンパク質をつくりだす牛の遺伝子を微生物に導入するという、遺伝子操作を伴った最先端の技術だ。

このテクノロジーは、従来の製法に持続可能で倫理的な代替案をもたらすパラダイムシフトといえるだろう。科学者たちは遺伝子操作を活用することで、古来の畜産を必要とせずに牛乳や乳製品の必須成分であるタンパク質などを複製することができる。

精密発酵のプロセスは、目的の乳タンパク質を合成する特定遺伝子を選出し、それらを酵母やバクテリアといった微生物に組み込むことから始まる。その後、環境をコントロールしたラボ内でその微生物たちを培養することで、発酵を通して乳タンパク質が生み出される。その結果、本来の牛乳・乳製品の味や口当たりや栄養分などを忠実に模倣する、科学的に操作された生成物が出来上がるわけだが、これまで酪農乳業界で問題となってきた環境への影響や倫理的懸念が生じることはない。

水耕栽培、オートメーション(自動化)、人工知能(AI)の出現、そして酪農場における技術力全般の進歩は、中東に見る昔ながらの酪農業の風景を一変するさまざまな要因を生んだ。「フードテックや農場運営の進歩は、この地域にまったく新しいチャンスをもたらしました」。アラブ首長国連邦(UAE)に本拠をおく乳業メーカー、Rumailah Farmのゼネラルマネジャーを務めるアブドラ・タレブはそう語る。また、過去には市場の需要を満たすため農産物を輸入に頼っていたが、現在では国内生産者の数が激増していると指摘する。

UAEの乳製品市場は2020年に16億6,000万ドル(約2,500億円)にのぼり、26年には24億7,000万ドル(約3,700億円)に達すると予想されている。一方、サウジアラビアは1日当たり700万リットル(およそ牛乳瓶1,800万本)という驚異的な量の牛乳を生産しており、世界有数の牛乳・乳製品輸出国となっている。

中東では植物由来の代替ミルクへの関心が高まっていることが複数の調査で示されており、製乳の分野ですでに名の知れた大手企業よりも、AlproやKoitaといった小規模なメーカーが市場に名乗りを上げ始めている。サウジアラビアの食品加工会社Almaraiをはじめとするこの地域の乳業界の巨頭たちは、いまだ牛のミルクに固執している。世界最大級の企業であるにもかかわらず、代替製品は一切提供していない。UAEのAl-Rawabiも同様である。

しかし、スタートアップ企業がラボ製のミルクで現状に風穴をあけようとする姿勢を受け、従来の牛乳製品以外の領域がもつ可能性に各国政府も注目し始めたようだ。アブダビ首長国は湾岸協力理事会(GCC)加盟国のなかでいち早く動き出し、米国のChange Foods社と120万リットルの生産キャパシティをもつアニマルフリー(動物非使用)の乳・乳製品製造施設を建設する契約を結んだ。

同施設は、精密発酵技術を利用して、環境への影響を最小限に抑えながら乳タンパク質の一種であるカゼインを製造する。従来の酪農場と比較した場合に、10,000頭の牛に相当する生産量を5分の1のエネルギー、10分の1の水、100分の1の土地で補えることが予想されている。

UAEのタニ・アル・ゼイユーディ貿易担当国務大臣は、この事業は同国のフードテックとアグリテックの継続的な成長の一環であり、同時に食料安全保障と持続可能な発展に貢献するもので、「乳製品の純輸入国から純輸出国に移行できる確かな将来性がある」と述べた。

「変えたのはプロセスであって、食品ではありません」

Remilkの場合、共同創業者兼CEOのアヴィヴ・ウォルフの、実家が酪農を営んでいたというルーツが変革を起こそうと考えたきっかけとなっている。ウォルフは、消費者にとって不可欠なものである一方で、動物の福祉と環境に多大な影響を与えている酪農産業の二面性を目の当たりにして育った。そうした経験は、特に世界人口が急速に増加している現状において、地球環境を損なうことなく生命維持に必要な食物を確保するために、食料生産のあり方を変えたいという強い思いを彼に植えつけた。そして、乳業に焦点を当て、業界に革命を起こすというミッションに乗り出したのだ。

ウォルフは、タンパク質研究を専門にする生化学者のオリ・コハヴィ博士と出会い、19年に共同でRemilkを設立した。同社は、精密発酵という古くからある食料生産技術を活用し、そこに現代的な工夫を加えている。「わたしたちは、牛の乳の生成に関与する遺伝子コードを特定してコピーし、それを極小の微生物である酵母に挿入しました」とウォルフは説明する。

その酵母は、乳タンパク質をつくるための「マニュアル」を与えられたことになる。そのため、巨大な醸造タンクの中で発酵させると、この小さな小さな単細胞生物は体重600kgの牛が生成するのと同一の乳タンパク質をつくりだす。これを乾燥して粉末状にすれば、ミルクの製造に使用できるようになるのだ。

このタンパク質からつくられた牛乳や乳製品には乳糖、コレステロール、成長ホルモン、抗生物質が含まれておらず、味や口当たりは牛由来の乳・乳製品と何ら変わらない。ウォルフは「変えたのはプロセスであって、食品ではありません」と話す。

大手乳業メーカーのダノンは最近、350万ドル(約5億2,400万円)の投資ラウンドの一部として、イスラエルのバイオテクノロジー企業Wilkに200万ドル(約3億円)を出資した。同スタートアップは「細胞農業(cellular agriculture)」がもつポテンシャルを生かして、牛乳と母乳の両方を開発している。この戦略的パートナーシップの目的は、乳幼児用粉ミルクのための培養母乳成分の開発を探求することだ。

Wilkは、牛から採取した乳腺細胞と乳房縮小手術で採取したヒトの乳房の細胞を、バイオリアクターで培養している。同社によれば、培養乳脂肪に含まれる栄養素は乳児の成長に不可欠であり、消化器系、脳、神経系の発達をサポートするという。研究室でつくる人口母乳は、大きな可能性に満ちた分野だ。サウジアラビアのハーリド・ビン・アルワリード・ビン・タラール・アル・サウード王子は、ビヨンド・ミートのような植物由来のタンパク質を開発する企業の早期投資家で、培養母乳を製造するシンガポールのバイオテック企業TurtleTree Labsの620万ドル(約9億3,000万円)の投資ラウンドでも出資している。

研究室でつくる母乳には、質と量の両方においてメリットがある。子どもを未熟児で産んだ母親はすぐには母乳が出ないことがあるし、単に出る母乳の量が赤ちゃんに十分でない場合もある。ラボメイドの母乳はカスタマイズして重要な栄養素やビタミンを補完することができるため、天然の母乳の質を上回る可能性もあるのだ。

細胞農業の揺るぎない将来性

乳業の世界を生まれ変わらせようと試みるもうひとつの中東のイノベーターが、EXOSOMM社だ。同社は、ヒトの母乳に本来備わっている特性を活用して、画期的な生理活性物質を生成するスタートアップ企業だ。独自の科学調査で得た知識をもとに、母乳に含まれる天然の粒子「エクソソーム」を抽出できる未来的な技術を開発した。このエクソソームという物質は、乳児の発育の初期段階に、また感染症や炎症、肥満などさまざまな病と闘う人にも、強固な免疫システムを築く上で重要な役割を果たしている。

エクソソームは、わたしたちの体の細胞からつくられる微粒子で、母乳の中にも大量に存在している。この顆粒一つひとつに、タンパク質をコードはしないが子どもの早期発達や長期的な健康に大きな影響を与える、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる小分子RNAが内包されている。興味深いのは、エクソソームの組成がヒト、牛、羊など哺乳類全般で似通っているという点で、このことからエクソソームが子孫を残すための進化に重要な要素であったことがわかる。エクソソームの保護膜は、マイクロRNAなどの内包物質を腸内酵素による分解から守り、ターゲット細胞に直接届けて働きかけることを可能にしている。

エルサレムにあるハダッサ医療センターの科学者たちは、長年にわたる熱心な研究の末、エクソソームが免疫異常や代謝性疾患の治療に役立つ可能性があることを発見した。この革新的な研究を基盤に設立されたのがEXOSOMMだ。

EXOSOMMは、伝統的なチーズの製造過程で生じる副産物をアップサイクルすることで最先端のエクソソーム抽出技術を発展させてきた。自然に取得されるこのエクソソームを、自社の先駆的なアプローチの礎としている。また、医療用食品メーカーや特殊な食事要件がある人に焦点を当て、この生理活性成分を製品ラインナップに組み込むことで業界の刷新を目指している。

オプティマルヘルス(最適で最善の健康)の維持に食べ物と栄養が極めて重要な役割を担っていることへの認識が深まり、食事に起因する慢性疾患の蔓延が拡大していることから、病気の予防や管理に「薬としての食品(food as medicine)」という考え方を導入する取り組みが促進されている。EXOSOMMのCEOを務めるニータ・グラノーは「栄養療法が腸の炎症を緩和できることが研究によりわかっています」と話す。

代替乳製品への関心の高まりは、Remilkなどのスタートアップが成功を収めていることからも見て取れる。Remilkは22年、牛を使わない牛乳やチーズ、ヨーグルトで1億2,000万ドルの資金調達に成功した。ImaginDairyは発酵乳製品の開発を手掛け、同年5月に拡張シードラウンドで2,800万ドルを確保した。

各社のこうした成長は、酪農乳業界の再起動を図る細胞農業の将来性が揺るぎないことを示しており、同時に投資家らが、持続可能性と革新性に富んだ代替品が増え続ける消費者の需要を満たすことに高い関心をもっていることを物語っている。

環境にもお腹にも優しい乳製品

なんと、世界中の人の68%は乳糖に耐性がないという。この乳糖不耐性症は、特にアジア、アフリカ、南米の国々で広く確認されている。

興味深いことに、炎症性腸疾患患者の結腸由来の3Dオルガノイドモデルを含む一連の非臨床試験において、ミルクエクソソームに炎症を抑える能力があることが実証され、大腸炎を誘発させたマウスでの病理学的スコアに90%の減少が見られたほか、ヒトの健康に欠かせないタンパク質であるTGF-β1(形質転換増殖因子ベータ1)の値が100%上昇。また、炎症に関連する遺伝子は70%減少した。

こうした細胞農業の目覚ましい進歩は楽観論を盛り立て、動物福祉への配慮という次元をはるかに超えて、乳業界に革命を起こすポテンシャルを約束している。細胞培養による牛乳生産は、地球温暖化の影響を緩和し大気汚染を軽減する可能性を秘めており、必要とする土地と水の量も従来の生産方法に比べて大幅に削減できる。

中東は、世界のほかの地域と同様に、地球規模の気候変動がもたらす広範な影響に直面しており、その影響は脆弱な食料システムにも及んでいる。Remilkのウォルフは、同地域の各政府は温室効果ガス(GHG)削減目標を達成する道を模索するのと並行して、世界中のサプライチェーンに影響を与えた今回のパンデミックのような世界的事象が起きたとしても、自国民に食料を確実に供給できるようにしていると指摘する。

「既知の食料生産のかたちを再構築する革新的な方法を提供する上で、フードテックは極めて重要な役割を担っています」と述べ、そのために活用されている精密発酵の技術は持続可能性とスケーラビリティが高く、各政府が国内の天候状態に関係なく導入できるため、乳・乳製品生産の有力なソリューションとして非常に適しているのだと強調した。

酪農乳業が排出するGHGは全体の大きな割合を占めており、ImaginDairyのアフェルガンによれば、総排出量の3.4%にのぼるという。この数字は、航空産業による排出量のほぼ2倍に相当する。そんななか、ImaginDairyは研究調査を通して、環境問題への取り組みに目覚ましい進歩を遂げている。

同社が行なった予備調査の結果によれば、GHGは93%、水の使用量は98%、そして土地使用率はなんと99%の削減と、どれも驚異的な数字を示した。これらはすべて、持続可能な発酵プロセスの賜物だ。アフェルガンは、「この発酵プロセスの利点は、環境に優しい上に牛乳や乳製品のよい部分だけを提供できる一方で、牛を育てる必要も代用品に妥協する必要もないということです」と付け加えた。

畜産は、地球の限りある資源に多大なる負担を強いている。驚いたことに、世界の農地の3分の2が家畜の飼育と飼料生産に使われているにもかかわらず、動物由来の肉製品や乳製品がわたしたちのカロリー供給に寄与する割合は、全体のわずか18%に過ぎないという。さらに言うと、畜産は世界のGHG排出の主要要因のひとつとして挙げられている。

ミルクやチーズの需要はとどまることを知らず、酪農産業は牛の本来の生産能力の限界を越えようとしている。この方程式から牛を削除することで、乳業の常識が根底から刷新され、環境フットプリントの大幅な縮小につながるのだ。

「わたしたちの製法は、土地も水もほんの少ししか必要としません。排出される二酸化炭素もごくわずかです」とウォルフは言う。「精密発酵は、動物による生産とは違って気候変動に影響を与えないので、増加の一途を辿る世界人口にタンパク質を安定的に供給できる信頼のおける方法です」

精密発酵技術に革新的な将来性を認めるグローバル食品大手ユニリーバは、非牛由来の乳を原料とするアイスクリームの製造で大躍進を遂げてきた。同社は、制御・管理された発酵槽内での乳タンパク質生産を可能にする精密発酵の研究開発に力を注いでいる。予定では今後一年のうちに、ラボメイド乳の将来性を明らかにする製品の販売を開始し、現在小規模スタートアップが独占する市場で消費者(や投資家)の信頼を得るための土台を築く構えだ。

ユニリーバが同社の主要ブランドのひとつを精密発酵ベースにすると決定したことで、今後この技術の拡張性と費用対効果は高まっていくだろう。世界最大級の消費財メーカーである同社がラボメイド乳市場に参入したいま、この業界が成長し、より幅広い消費者層の需要に応えられるようになることが期待されている。

乳業の新時代に沸く投資家たち

フードテック分野全般、特に精密発酵技術は、中東の主要テクノロジーとなる可能性を秘め、世界規模の投資を呼び込み、食料の安定供給を確保し、地域全体に雇用を生み出すことが見込まれる。アフェルガンは、精密発酵のような製法は、再生可能エネルギーや低価格エネルギーの恩恵を受けられることから、中東で規模を拡大するのは理に適っていると考えている。「また、天候に左右されずに乳タンパク質を生産できるので、中東にはもってこいの技術です」と付け加えた。

この分野の技術的進歩の速さと、いくつかの銀行やネスレ、ダノン、そして今度はユニリーバといった大手食品メーカーからの大規模な資金投入は、ラボメイド製品が一般的なものとして世界中のスーパーに並ぶ日もそう遠くない可能性をうかがわせる。

同分野での取り組みをさらに発展させたいEXOSOMMは、ホエイ(乳清)製品の製造を専門とする生鮮乳製品メーカーのBa’emek Techと提携を果たした。Ba’emek Techは原材料のほかにも、EXOSOMMの発展・拡大目標の達成に必要な商用技術インフラのすべてを提供している。

EXOSOMMが独自開発した製造工程は、伝統的なチーズ製造の過程でできる副産物、具体的にはホエイ(乳清)を利用している。ホエイとは、チーズをつくる際に凝固させた牛乳から固形成分を取り除いた後に残る液体のことだ。このホエイだが、世界全体で生成される量は、年間なんと約1億2,100万トンにも及ぶ。グラノーは、「この(エクソソームを製造する際の)工程は、廃棄物であるホエイを付加価値のある製品に変えることで、その利用価値を最大限活かしています。当社は、牛乳生産に一切負担をかけることなく牛乳のメリットを抽出しているのです」と話す。

最終的な目標は、ミルクエクソソームがメッセンジャーRNA(mRNA)を介していくつかの病状に有益な効果をもたらしたことを示す科学的証拠をもとに、多様な製品ポートフォリオを構築することにある。「将来的には、耐糖能を高め膵臓や肝臓の機能障害を予防する可能性を示す一連の非臨床試験をもとに、糖尿病予備軍と診断された成人に向けた製品の開発を目指しています」とグラノーは言う。

世界の聡明な頭脳の持ち主たちが合成生物学の可能性を買って大きな賭けに出ているようだが、いまさら驚くことでもない。テクノロジーと慈善活動の分野でその偉業が知られるビル・ゲイツのような先見の明のある人たちは、すでにラボメイド乳に多額の投資を行なっている。ラボメイド母乳を開発する米国のスタートアップ企業Biomilqは、環境に優しい製品の将来性が評価され、ゲイツ率いる気候変動問題に特化した投資基金Breakthrough Energy Venturesから2020年に350万ドル(約5億2,400万円)の出資を受けている。

アフェルガンは、「イスラエルは、たくさんのスタートアップが事業拡大とサプライチェーンの構築を目指して集まる、いわばフードテックのハブになっています。中東とパートナーを組めば、すべての関係者が物事を容易に進められ、大きな利点を得られるでしょう」と断言する。また、現在すでに植物由来の代替乳製品が世間に浸透していることを考えれば、べジタリアンやヴィーガンだけでなくフレキシタリアン[編注:基本は菜食だが時には肉や魚も食べる柔軟なベジタリアン]を含む幅広い消費者層をターゲットにする非動物由来の製品は、より大きな成功を掴む可能性を秘めていると付け加えた。

環境保護活動家でアカデミー賞受賞俳優のレオナルド・ディカプリオも、ラボメイド開発企業に多額の投資をするひとりだ。ディカプリオは、代替乳開発ブランドのPerfect Dayの諮問委員会に加わった。Perfect Dayは、Marsなどの食品メーカーに対し、環境を害さずにミルクチョコレートの再現を可能にする非動物由性ホエイを製造・販売している。

またディカプリオは、Aleph FarmsとMosa Meatという細胞培養肉メーカー2社にも投資を行なってきた。こうした事業を通じて、技術の開発と導入を積極的に後押しし、食品業界の再構築と環境への影響緩和を目指しイノベーションの限界に挑む企業を支援し続けている。

「強力なコミュニティの存在こそが、新しくて画期的な乳製品の提供と、新時代の乳業への消費者の認識と理解を高められるような市場の育成を促進するものと信じています。いままさに、代替食品時代の幕開けなのです」と、ウォルフは言う。

WIRED/Translation by Tomoyo Yanagawa, LIBER/Edit by Michiaki Matsushima)

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