2019年9月、ニューヨークを訪れた小泉進次郎環境相が「毎日でもステーキを食べたい」と発言し、国内外で批判されたことは記憶に新しい。
なぜなら世界の温室効果ガスの総排出量のうち、畜産業によるものは14%。そのうち特に排出量の多いのが牛で、畜産業の65%を占めているのだ(FAO=国連食糧農業機関)。
つまり「毎日ステーキ」は、環境意識の高い人にはありえない発言だった。
アメリカではいま若い世代を中心に、環境を意識した食生活がブームとなっている。
一方、相次ぐ豪雨水害やコロナで日本でも環境意識が高まっている中、我々の食生活はどう変わっているのだろうか?取材した。
牛肉だけは食べないというNYの若者たち
「彼に瑕疵は無くても、気候サミットに行ったのに環境省の人がステーキをおおっぴらに食べに行くのは問題があると、どうして思い至らなかったのが疑問ですね」
小泉氏の「毎日ステーキ」発言についてこう語るのは、ニューヨーク在住のジャーナリスト津山恵子さんだ。
津山さんはニューヨークのステーキ屋に行った小泉氏の映像を見て目を疑ったという。
「これはダメじゃないのと。環境問題で日本を代表する公人がドヤ顔でステーキ屋に行くのを喧伝するセンスのなさ。TPOを完全に間違えていました」
なぜなら津山さんのアメリカ人の友人は20代から40代が多く、3~4割がベジタリアン=菜食主義者。また、全米の中でもニューヨークは環境意識が特に高く、「牛肉は温室効果ガスの排出量が高いから牛肉だけは食べない」という若者も多い。
「友人たちは、地球がいまのままだったら住む場所も食べ物も無くなりいまの生活が保てなくなるという危機意識が強いです。先の気候サミットデモに参加した若者と話をすると、肉を食べたら地球が病んでいくという感覚でしたね。特に牛は排出量が豚や鶏の6倍以上ありますからね」(津山さん)
アメリカの成人の5%はベジタリアン
アメリカのギャロップ社の調査によると、アメリカの成人の5%がベジタリアンで、男性より女性の比率が高く、低年齢層ほどベジタリアンが多い。また保守層とリベラル層では、リベラル層が11%なのに比べて保守層はわずか2%。地域では東海岸と西海岸の比率が高く保守的な土地柄の北西部や南部では比率が低い。
若い世代にベジタリアンが多いため企業もこの世代の取り込みに懸命だ。
「ニューヨークではこの数年、どのレストランでもベジタリアンメニューが1割程度はあります。ベジタリアンに来てもらわないと売り上げにも影響があるからですね。ミレニアルやジェネレーションZと呼ばれる30代以下の世代は、消費市場の過半数を超えています。ですから食品ビジネスでは、この世代を意識したマーケティングが当たり前になっています」(津山さん)
特にコロナのロックダウンによって、アメリカのスーパーでは肉類が一時的に品薄になったこともありベジタリアン率が上がったのではないかと津山さんは語る。
ビーガン王子はなぜビーガンになったのか
では、日本の若い世代の食生活はどうなのだろうか?
アメリカから来日しモデルとして活躍する傍ら、ビーガン(※)の普及活動を行っている「ビーガン王子」ことアレックス・デレチさんに話を聞いた。
(※)植物性食品のみを食べ、肉、魚、卵などすべての動物性食品を食べない完全菜食主義者
アレックスさんはカリフォルニア生まれの24歳。17歳からビーガンを始めた。
きっかけは高校の同級生にビーガンがいたことだったという。
「同級生にビーガンがいたので調べてみると、毎日当たり前のように食べている食事が自分の健康、地球環境、動物に影響を与えていることに驚きました。そこで何か問題解決に貢献したいなと思いビーガンになることを決めました。家族は栄養不足になるのではと心配しましたが、1年後に家族で健康診断をしたら僕が一番健康的でした(笑)」
牛の飼育によって大量の温室効果ガスが排出されるのは前述の通りだが、アレックスさんがさらに驚いたのは地球の資源への影響だった。
「動物性の食品を作るのに多くの地球の資源が必要なのに驚きました。たとえばハンバーガーを1つ作るのに、2千500リットルの水が必要になる。つまりハンバーガー1個をビーガンバーガーに変えれば、約3か月分のシャワーの水を節約することが出来るんです」
また、動物性の食品を減らせば、世界の飢餓や食べ物・水不足の解決にもつながるとアレックスさんはいう。
「世界で飢餓や食べ物・水不足があるのに、アメリカでつくられる大豆や野菜の多くは動物の飼料になります。それだけでなくアマゾンの熱帯雨林の伐採の9割以上が、畜産が原因なのです。放牧のために熱帯雨林を伐採して燃やす。私たちがふだん想像できないところまで、毎日肉を食べることが影響しているのです」
ビーガン王子から見た日本の環境意識
アレックスさんは、2017年7月に来日して以来、ビーガンの普及活動を行っている。
SNSやイベントなどでビーガンの情報を発信するほか、試食会のプロモーション、日本企業の商品開発のアドバイスや海外企業の日本進出サポートが主な仕事だ。
「ビーガンインフルエンサーとして、楽しく美味しく分かりやすく情報を届けたいなと思っています。ポール・マッカートニーが設立した『ミート・フリー・マンデー』という団体があって、毎週月曜日は肉を食べない日にしましょうと。こうしたイベントにも参加しています」
日本でビーガンは、タレントのローラさんがビーガンを目指すと発信するなど徐々に知名度は上がっているが、一般的にはなじみが薄い。アレックスさんから見た、日本人の環境意識はどうなのだろうか。
「日本に来て、環境への姿勢は素晴らしいなと思いました。お手洗いが綺麗だし、道ばたにゴミが無いし。ビーガンと環境の関わりはまだ知られていませんが、プラ袋が有料になったり、再利用できるストローが増えてきていて、環境への意識はどんどん高まっていると思います」
ビーガンは少しずつ取り入れるのがおススメ
では環境に配慮した食生活をどうやれば実践できるのだろうか。
アレックスさんは「最初の一歩が難しいですが、少しずつビーガンを取り入れることがおススメです」と語る。
「毎朝シリアルと一緒に使う牛乳を、豆乳やアーモンド・オーツミルクに変える。いま通販でビーガン食品は簡単に手に入ります。ラーメン、餃子、カップヌードルのビーガン商品もありますよ」
とはいえ、まだまだ日本では、身体を作るには肉という「信仰」が強い。
「最近はビーガンへの考え方が、『ビーガンでも健康的になれるし栄養もとれる』から、『ビーガンだからこそ栄養をとれるし強くなれる』に変わってきています。伝説のウルトラランナー、スコット・ジュレクさんもビーガンですし、シュワちゃんも99%ビーガンといっています(笑)」(アレックスさん)
「日本でビーガンをどれだけ早く広められるか挑戦したい」というアレックスさん。
「ビーガンが美味しいなと気付けば、食べたくなります。アメリカでは、公的な場での食事にビーガンが増えています。今年のアカデミー賞の授賞式で、俳優のホアキン・フェニックスさんが受賞スピーチでビーガンの話をしていましたね。ふだん地球温暖化や環境問題について語っているのなら、毎日の食事について意識してみるのがいいですね」
小泉環境相はじめ環境省の職員も、まずは1日ビーガンを実践してみてはどうだろうか(筆者もだが)。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
"ステーキ" - Google ニュース
September 11, 2020 at 09:40AM
https://www.fnn.jp/articles/-/83687
ビーガン王子に聞く「毎日ステーキはなぜ悪い?」 - FNNプライムオンライン
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